民生委員制度それは100年以上にわたる地域福祉の柱

【特別資料】ベテラン民生委員の森本は市役所職員の谷口と共に、担当している無口で人付き合いを嫌う単身高齢者の遠藤を日々、気にかけて訪問を続けていた。そんな二人が体験した悲しい結末・・・。民生委員や行政職員の苦悩や日々の見守り活動の様子を如実に描写された漫画動画を作成しています。是非ご覧ください。

※上記のほか様々な漫画動画をご用意しています。下記のYoutubeチャンネル「LINEでみまもる らいみー」にてご鑑賞ください。

https://youtube.com/@limee1979?si=jWdmm27JsrhHnArp

民生委員ってどんな人?

~由来と社会における働きについて~

民生委員制度は、1917(大正 6)年に岡山県で誕生した「済世顧問制度」を始まりとします。翌1918 (大正 7)年には大阪府で「方面委員制度」が発足し、1928(昭和 3)年には方面委員制度が全国に普及 しました。1946(昭和 21)年、民生委員令の公布により名称が現在の「民生委員」に改められました。 この間、一貫して生活困窮者の支援に取り組むとともに、とくに戦後は、時代の変化に応じて新たな活 動に取り組むなど、地域の福祉増進のために常に重要な役割を果たしてきました。民生委員制度は、1917年に始まった「方済世顧問制度」にそのルーツを持ち、100年以上の歴史を持つ日本の地域福祉の重要な柱です。この制度は日本全国に導入されており、地域社会の中で支援を必要とする人々、特に高齢者や生活困難者、障がい者、ひとり親家庭など、広範な層を対象に福祉支援を提供しているとても大切なインフラなんです。

民生委員制度にそびえ立つ大きな壁

 ~担い手不足と高齢化の進行。地域福祉の持続可能性への課題とは~

現代の日本では少子高齢化が進行し、家族間の関係性や地域コミュニティの希薄化が進む中で、民生委員の担い手不足が深刻な課題となっています。2023年時点で、全国の民生委員の定数は約24万人に対して、約1万3,000人もの欠員が存在しています。特に東京都などの大都市圏では充足率が88.5%とさらに低く、1人の民生委員が650名以上を担当する地域もあります。仕事や家庭を持つ民生委員さんがおひとりで600人を超える方々を支援するなんてことは到底、無理ですよね。民生委員さんの業務は無論、義務ではありません。しかしながら、高い志を持って民生委員としての務めを果たさなくてはならないといった気持ちでこの業務に真摯に向き合う方々が多いことから、その責任を重圧と感じ、心身共に疲弊されてしまう方もいるのも事実です。この状況は国が示す政令市の参酌基準(220〜440人)を大きく超えています。

また、民生委員の約9割が60歳以上であり、その平均年齢は66歳に達しています。このような状況下では、地域福祉を担う人材の確保が今後の課題となっています。このまま充足率が低減していくようであれば近い将来、この制度は機能を果たせなくなることが懸念されます。今日現在においても日本の高齢化率は世界でも類をみない未曾有の状態となっています。しかし、高齢化はこの先、2040年まで容赦なく進んでいってしまいます。これがどういったことを意味しているのか…。誰もが真剣に考えなくてはならないフェーズに突入してしまっています。

若者が示す新たな希望の光 

~「民生委員になりたい」若年層の意識~

一方で、若者の中にも「民生委員になりたい」という意識が芽生えつつあります。民生委員になってみたいと考えている若者は他の年齢層と比べても増加傾向にあることは全国民生委員児童委員連合会の調査結果からわかります。この調査は2022年3月に10~70歳代の合計1万人を対象にインターネットを通して行われ、「将来的には民生委員になってみたいか」との設問で、「大変あてはまる」または、「ややあてはまる」と答えた10~20歳代の割合は、男性が25・0%、女性が24・7%となっています。2019年に同会が行った調査の結果と比べると、男女とも4・7ポイントずつ増えているのです。これにより若者の社会貢献への関心が認められていることがわかります。 具体的には、SNSやメディアを通じて地域社会の課題が共有される中で、若者たちは高齢者問題や地域福祉に対して関心を持つようになっています。また、降雨、地震災害現場において活躍する民生委員の姿を目にする機会が増えたことも、この関心を高める一因となっています。ボランティア活動を通じて地域福祉に関わりたいという若者の声も聞こえてきますが、民生委員制度そのものに対する理解がまだ十分ではないという課題も残っています。政府はTVCMやSNSを駆使するなどして民生委員制度やその活躍ぶりをもっと国民に対して周知する必要がありますよね。この調査結果ですが今はまだ小さな一筋の光かもしれません。しかし、近く若者世代の民生委員が各地で多く活躍する様子がことを願うばかりです。

民生委員制度を持続可能性あるものとするための新たな支援体制の構築

~人の力とテクノロジーの伴走~

民生委員不足を解消し、負担を軽減するためには、新しいアプローチが求められています。厚生労働省が作成した資料「民生委員・児童委員制度の最近の動向」内にあるアンケート結果によると、各種業務の中で最も負担でああると感じている活動は「訪問活動」であることがわかります。効果を担保しながらも合理性ある体制構築に向けた見直しや、新たな手法を見出すことで民生委員の業務負担を大幅に軽減することが肝要です。

一部の自治体では、センサー系の技術を用いた「見守りサービス」を活用して高齢者の生活状況を離れて暮らす家族が把握するといった仕組みが導入されています。これにより、対象者の生存状況を日々把握することで孤独死予防としています。もしもの時、家族からの直接的な対応が行えない場合などは民生委員や自治会、近隣住民へ対応を依頼することで即応できる体制が整えられています。ただし、便利なこのセンサー系のサービスですが、対象者が長時間のお出掛けなどに出てしまっている場合、センサーは構わず反応してしまうこともあり誤報、誤認といった問題を含んでいます。

さらに、民生委員協力員制度も導入されており、民生委員の活動を補佐する人材を確保する動きが進んでいます。協力員は地域での見守り活動やサロン活動を支援し、次世代の民生委員を育成する役割も担っています。現役の民生委員が若者を指導することで、若者たちが地域福祉の現場を体験しながら実践的なスキルを身につける機会を提供しています。

見守りサービスのゲームチェンジャー「LINEでみまもる らいみー」

~本質をついた仕組みと効果~

これまで述べてきたとおり、民生委員と対象者が直接的に関わることは大変素晴らしい取り組みであり、孤独・孤立対策の基本的な理念の下、非常に重要で効果的です。しかし一方で、その民生委員の方々の善意に、この社会は見守りの一端を委ねてしまっているのではないでしょうか。民生委員一人ひとりに課せられた責任や重圧は計り知れず、精神的・行動的な負担をかけているという認識を持つことが重要です。

また、ボランティアである民生委員が何十人もの担当する高齢者に対して日々関わりを持って接することは不可能である言うまでもないでしょう。週に1度の訪問ですら容易なことではなく、多くの地域では月に1度訪問できるのが実情です。しかし、孤独死防止の観点からいえばそれではまったく不十分です。その理由は「人は亡くなると72時間で腐食してしまう」ということです。たったの72時間放置されてしまうだけで「死後の尊厳」を損なってしまうのです。

だからこそ、テクノロジーの力を活用することが求められていると筆者は考えます。それを裏付けるように現在、様々なテクノロジーやデジタルを利用した見守りサービスが存在します。その多くはセンサーや機械を用いて単身者の生活行動や生体シグナルを把握することで孤独死の防止に努めています。これらの技術は大変優れたものであり、孤独死の防止に大きな役割を果たしています。しかし、センサー系の設置には初期導入コストや設置する手間などが発生します。また、既述ではありますが高齢者が外出する際に誤認や誤報が発生することも少なくありません。

さらに、センサーでは孤独感や孤立感を抱く方の気持ちに寄り添うことは不可能です。対象となる方の気持ちに寄り添い「わたしは一人じゃないんだ」というような気持ちをもっていただくことは孤独死防止と同じくらい大切なことではないでしょうか。令和5年6月7日、公布された「孤独孤立対策推進法」がそのことを裏付けていると思います。言い換えれば、孤独孤立対策を推進する法律を作らなくてはならないほど我が国の「少子高齢化」、「多死社会化」は申告であるといえるのです。孤独孤立対策推進法」の趣旨については以下のとおりです。

「LINEで見守る らいみー」は基本的には孤独死防止のための見守りサービスです。しかし、せっかくなら人の心にすこしでも寄り添えるような見守りサービスでありたい。そんなコンセプトを大切にして開発されました。毎朝の安否確認通知には、笑顔を誘うような言葉や元気になれるメッセージ、時には面白い動画やためになるコンテンツも添えて送ります。日々、心のつながりを提供することで「誰かと繋がっているんだ」という安堵感を高めることを目指します。

また、利用者は自らのコンディションを「元気」、「精神的につらい」、「体調不良」の3つから簡単に選択し、その状態を見守る人に伝えることができます。この機能によって見守る人は対象者の精神状態も含めた状況を把握することができます。このように「LINEで見守る らいみー」は、孤独死防止を目的とするだけでなく、人間的なつながりを持った有機的な要素を併せた見守りサービスとして設計されています。

その他の機能としては、誰かとおしゃべりしたいと思う場合、気軽に電話をかけてオペレーターとお話できる「ちょこっと電話」や月に一度のオンラインサロンで懐かしい話題や昨今のトレンドや出来事などについて自由に語り合える居場所「オンラインサロン しゃべり場」も備わっています。これにより、物理的な距離を超えて交流の場を提供し孤立感を軽減する取り組みを実現しています。

これまで述べた各種機能は各地で行われている高齢者サロンをイメージして作られており、LINEというデジタルプラットフォーム上で集約・拡張する形で提供できます。

「LINEで見守る らいみー」は、既存の民生委員の活動や既存のセンサーサービスをを否定するものではなく、それらを補完し、より多面的で効果的な孤独・孤立対策を実現するサービスです。 こうしたデジタル技術が活用されることで、民生委員制度は持続可能なものとなり、地域福祉に新たな形態をもたらすことができるだろう。テクノロジーと地域の力を結集することで、民生委員の役割はより効率的かつ戦略的に進化し、地域全体の福祉水準向上に貢献できるものと考えています

さいごに

~持続可能な民生委員制度のために~

民生委員制度は、長年にわたり地域福祉を支える基盤として重要な役割を担ってきました。しかし、少子高齢化や地域社会の変化に伴い、その持続可能性が危機に瀕しています。テクノロジーの導入や新たな手法は、地域福祉の未来を切り開く可能性を持ちますが、これを実現するためには地域全体での支援体制の強化と次世代の育成が急務です。

民生委員制度の将来を考える際には、現状の課題を解決するだけでなく、制度自体を更新し、現代社会の構造変化を明確にとらえ、現代のニーズに合った新しい形の地域福祉を構築することが大切です。デジタル技術を活用した見守りシステムや柔軟な参加方法を提供することで、より多くの人々が地域福祉に関わることができる体制を整えることが可能となります。持続可能な民生委員制度を築くために、地域全体の協力と新しい取り組みが必要です。

参考文献および出典

  1. 厚生労働省「民生委員・児童委員制度の最近の動向」
  2. 全国民生委員児童委員連合会「全国1万人への民生委員・児童委員に関する意識調査」(2022年3月)

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